2023年7月7日『地球温暖化敗戦 日本経済の絶望未来』(山田順・著、ベストブック)が発売されました

2023年7月7日『地球温暖化敗戦 日本経済の絶望未来』(山田順・著、ベストブック)が発売されました

山田順の新著『地球温暖化敗戦 日本経済の絶望未来』(ベストブック、1,760円)が発売されました。

 地球温暖化に関してはいまだに科学論争が続き、日本ではなぜか「温暖化陰謀論」「温暖化懐疑論」が盛んです。しかし、もはやそんなことを言っている場合ではなく、温暖化は最大の経済問題になりました。したがって、これに積極的に対処しなければ国は衰退する一方になります。残念ながら、日本の温暖化対策は、世界から周回遅れ、いや2周は遅れています。いまのままでは、EVに乗り遅れたトヨタをはじめ、多くの日本企業は行き詰まるでしょう。
 本書は、今年になって書き始め、約3カ月でまとめました。これまでの世界の動き、日本の動きを網羅し、どうすべきかを警告しています。すでに、「気候移住」は始まり、不動産市場にも影響が出ています。
 以前の私は「温暖化懐疑論」者でしたが、近年の気候変動の激しさを見て、考えを大きく変えました。
 以下、長いですが、「はじめに」を転載します。(著者より)

■「はじめに」全文公開

「このままでは本当にまずい」
 新型コロナのパンデミックの最中から、そういう声を各方面で聞くようになった。なにがまずいのかと言えば、日本の地球温暖化対策が世界から“周回遅れ”“方向違い”になっていることだ。
「周回遅れならまだいい。2周も3周も遅れているうえ、対策の方向が間違っている」と言う専門家もいる。

 こう言われると、「そんなことはない。遅ればせながら菅前首相は2020年秋に“2050年カーボンニュートラル”を宣言し、日本はそれに向かって世界と歩調を合わせていくことになったではないか」という反論が聞こえてくる。

 しかし、ここではっきり書いておきたいが、「カーボンニュートラル」(carbon neutral)はほぼ口先だけの話。日本の現状から見て、実現の可能性は極めて薄い。具体的な計画もロードマップもあいまいだからだ。その後、菅前首相は「温室効果ガス」(GHG:Greenhouse Gas、グリーンハウスガス)を2013年度比で46%削減するという目標を設定したが、これは世界の主要国と比べると明らかに低い。

 思い出されるのは、2009年9月、当時の鳩山由紀夫首相が、ニューヨークでの国連本部で開かれた「気候変動サミット」で行ったスピーチだ。

「IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)における議論を踏まえ、先進国は、率先して排出削減に努める必要があると考えています。わが国も長期の削減目標を定めることに積極的にコミットしていくべきであると考えています。また、中期目標についても、温暖化を止めるために科学が要請する水準に基づくものとして、1990年比で言えば 2020年までに25%削減を目指します」

 この宣言に、「やはり日本だ」という声も上がったが、その結果は書くまでもない。2011年に東日本大震災に見舞われるという不幸もあったが、対策は遅々として進まず、政権が交代すると“鳩山宣言”はあっさりと撤回された。

 2013年1月、就任間もないは安倍晋三首相(当時)が、25%削減目標に関してゼロベースでの見直しを指示したのである。安倍元首相が、地球温暖化に関心が薄かったのはよく知られている。

 安倍政権の約9年間で、日本の地球温暖化対策はほとんど進まなかった。その進まない針を菅元首相が進めたのが

「2050年カーボンニュートラル宣言」だった。

 「カーボンニュートラル」とは、ひと言で言えば、地球温暖化の原因とされるGHG(温室効果ガス)の主成分である「二酸化炭素」(CO2)の排出量と吸収量・除去量をニュートラル(均衡)=プラスマイナスゼロにすること。地球上に人間が排出したCO2を植物などがすべて吸収すれば、これが実現する。

 現在、CO2は、炭素(carbon:カーボン)を含む化石燃料を燃焼したときや、人間や動物が呼吸をしたときに排出され、それが植物などの吸収量を大きく上回っている。

 ちなみに、カーボンニュートラルが実現した社会を「脱炭素社会」(decarbonized society:ディカーボナイズド・ソシエティ)と呼んでいる。

 現在、世界で行われているカーボンニュートラル政策は、IPCCによる調査研究の結果がベースになっている。IPCCは、地球の気温上昇を1.5℃以内に抑える条件として「2050年ごろまでにカーボンニュートラルを実現させる必要がある」と提唱した。これを受けて、世界の145の国と地域(中国は2060年)がカーボンニュートラルを表明した。

 菅政権から地球温暖化対策を引き継いだ岸田文雄政権は、GX(Green Transformation:グリーントランスフォーメーション)の積極導入を打ち出し、「GX実行会議」を創設した。GXとは、太陽光や風力・水力・などの「再生可能エネルギー」(green energy:グリーンエナジー、「再エネ」と略)への転換を通して産業構造を変革し、脱炭素社会の実現と経済成長の両立を図る取り組みのこと。岸田首相は、GX実行会議の創設とともに、脱炭素へ向けて10年間で150兆円超を支出することを表明した。

 しかし、GX実行会議での議論を基につくられた「GX推進法案」が2023年4月に国会で成立したが、その中身たるやお寒いかぎりである。まず法案自体が、原子力発電所の「60年超」運転を可能にする5つの関連法の改正案を一本化した「束ね法案」に過ぎなかったこと。次に、再エネを主力電源としながらも、脱炭素の定義がないため、再エネ化の道筋が見えないこと。さらに、当初必要とされる20兆円の財源を「GX経済移行債」という国債でまかなうことなど、これで脱炭素化が本当にできるのかという中身なのだ。

 結局、はっきりしたのは、原発の再稼働・新設と運転延長だけである。ウクライナ戦争によってエネルギー事情が逼迫するなか、GXという言葉を隠れ蓑にして、再エネ化を原発頼りにしてしまったという印象しか持ちえない。

 現在、脱炭素に向けての最大の課題は、世界各国で主流となっている「カーボンプライシング」(carbon pricing)の導入である。「GX推進法案」では、カーボンプライシングの導入が決まったが、その本格稼働は2030年代と、欧米や中国と比べると明らかに遅い。また、いまもなお稼働中の石炭火力をどう削減するかという大問題もある。

 岸田首相は安倍元首相と同じく、地球温暖化問題には関心が薄い。そうでなければ、GX担当相に、統一教会問題で火だるまになった萩生田光一経済産業相を兼務とはいえ起用しないだろう。彼は原発推進派の1人で、これまで環境対策に積極的な発言をしたことはほとんどない。

そればかりか、統一教会問題でウソを連発して辞任に追い込まれた山際大志郎氏を、経済財政政策担当大臣に起用していた。山際氏は温暖化懐疑論者であり、これまで炭素税導入に明確に反対を表明してきた人物の1人だ。

 このように地球温暖化無関心政権が続いてきたせいか、日本企業はおしなべてカーボンニュートラルに周回遅れになっている。いまや最後に残った日本の主力産業の自動車産業は、いまだにガソリン車が収益の柱である。

 時価総額や1台当たりの利益率などで、EV(Electric Vehicle:電気自動車)1本足打法のテスラに抜かれたトヨタは、2022年後半から慌ててEVシフトを強めた。そうして、2023年4月から豊田章男氏に代わって佐藤恒治氏が社長に就任した。しかし、佐藤社長は、EVに注力するも基本的に「マルチパスウエー」(全方位戦略)で行くことを表明している。

 これでは、近い将来クルマがEVに1本化されたとき、トヨタが傾くのは確実だ。「このままではトヨタは間に合わないのではないか」という声も聞こえてくる。トヨタは環境団体から、自動車メーカーの脱炭素ランキングでワースト1に認定されている。

 たとえば、アップルはすでに自社の世界のすべての施設で再エネ100%を達成済みだ。そして、現在、2030年までに自社のすべてのサプライチェーンでのカーボンゼロを目指している。

 地球温暖化と言えば、日本人が思い出すのは1997年の「京都議定書」(Kyoto Protocol)だろう。あの当時は、日本はまだ「環境先進国」だった。しかし、いまは間違いなく「環境後進国」である。

 また、再生可能エネルギーと言えば、なんと言っても太陽光発電であり、1990年代は日本が世界の太陽光発電をリードしていた。太陽光パネルのシェアは世界一だった。しかしいまや太陽光パネルのシェアの85%は中国に持っていかれた。

 地球温暖化はウソだという懐疑論、陰謀論がある。日本ではなぜかこうした見方が根強い。なにしろ、あのトランプ前大統領は、「それはでっち上げだ」(It’s a hoax.)、「中国が自らのためにアメリカの産業の競争力をなくそうとつくったコンセプトだ」(The concept of global warning was created by and for Chinese in order to make U.S. manufacturing non-competitive.)と言ったのだから、無理もない。

 実際、トランプ前政権は「パリ協定」(Paris Agreement)から離脱した。

 じつは私も、当初は地球温暖化を疑っていた。「温暖化ではなく寒冷化している」「寒冷期と温暖化が繰り返すサイクルに過ぎない」ということのほうが真実ではないかと思っていた時期もある。

 しかし、IPCCの報告と懐疑論を読み比べつつ、近年の気候変動の猛威を見て考えを改めた。もはや、科学をもって論争しても無意味と思うようになった。IPCCが言うような人為的な温暖化が事実であろうとなかろうと、この問題はすでに科学論争を超えて経済問題、社会問題になっている。

 たしかにいま、世界各国はこの問題に対して温度差がある。しかし、もう方向は決まってしまっている。地球温暖化を防ぎ人類の生き残りを図る。そうしながら経済を回していく。この方向に世界は動いている。

 つまり、すでにバスは発車しているのである。

 ならば、日本のように乗り遅れているとどうなるかは、言うまでもないと思う。

 本書は、地球温暖化を科学的に捉えて論じるものではない。なにしろ、私にはそんな知見がないし、その能力もない。よって、この問題を経済、社会の面から捉え、私たちはどうすべきかを考えていく。このままでは、日本はさらに環境後進国になってしまう。脱炭素競争から脱落すれば、多くの日本企業は凋落し、私たちの暮らしはよりいっそう厳しいものになってしまうだろう。

著者について

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