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24/03/07●経産省が書店支援の「書店振興プロジェクトチーム」設置という愚策を発表

 本当に、この国の政府の時代錯誤ぶりは救い難い。経済産業省は、3月5日、全国で減少する町の書店を支援する大臣直属の省内横断組織「書店振興プロジェクトチーム」を設置したと発表したのだ。

 この発表で、斎藤経済産業相は、(町の書店は)創造性が育まれる文化創造基盤として重要だ」としたうえで、「いまある様々な政策をどのように活用している例があるか、創意あふれる工夫に光を当てていきたい」と述べたのだから、呆れるというしかない。

 すでに、町の書店は、デジタル社会の進展で、全国の市区町村のうち、地域に書店が一つもない自治体は約4分の1に達している。これは、当然の成り行きであり、そのことが、文化を後退させているなどということはない。

「書店振興プロジェクトチーム」は、映画や音楽などのコンテンツを扱う部署に事務局を設け、キャッシュレス決済や中小企業を支援する部署も参加し、今後、書店経営者などへのヒアリングを行い課題を把握するという。完全な税金の無駄遣いである。

 こんな愚策を臆面もなくやれるのは、自民党の「街の本屋さんを元気にして日本の文化を守る議員連盟(幹事長は齋藤経産大臣)」の存在がある。時代の変化で、自然に衰退していく産業を守るというのは、社会主義国家でもやらない。

24/02/26●2023年コミック市場は6937億円 前年比2.5%過去最大

 出版科学研究所は2月26日、2023年のコミック市場規模を発表した。紙+電子市場(推定販売金額)は前年比2.6%増の6937億円で、6年連続の成長、過去最大を更新した。

 紙のコミックス(単行本)は1610億円(同8.2%減)、コミック誌は467億円(同7.4%減)で、合計2107億円(同8.0%)となった。紙のコミックス(単行本)はコロナ禍の2020年と2021年に大きく伸長したが、2022年には沈静化、2023年はコロナ禍前の2019年を下回った。紙のコミックス(単行本)、コミック誌は減少が続いている。

 一方、電子コミックは4830億円(同7.8%増)で、コミック市場全体における電子の占有率は69.6%と約7割になった。映像化などにより紙でもヒットした作品だけでなく、ストア独占や先行配信作品の強化、電子オリジナル作品、縦スクロールコミックの好調さが市場を底上げしている。

24/02/09●ドラマ『セクシー田中さん』問題で、小学館の編集者一同が声明を発表

 ドラマ「セクシー田中さん」(日本テレビ系)の原作者、芦原妃名子さん(享年50)が急死(自殺)した問題で8日、出版元の小学館と同社第一コミック局の編集者一同がそれぞれコメントを発表した。
 原作が映像化により、原作と大幅に違ったものになる。それはよくあることだが、今回は、その過程で原作者と制作側、脚本家の間に、認識の違い、コミュニュケーション不足などがあり、不幸を招いてしまった。この問題をめぐっては、漫画家や有名人がSNSで様々なコメントを出し、大きな社会問題になっていた。
 日テレと小学館のコメントが、とって付けたような言い訳だったため、問題は大きくなっていた。
 そこに、とうとう編集者一同の声明。その内容は、声をあげることが遅れたことを謝罪しつつ、最後に「どうしてもどうしても、私たちにも寂しいと言わせてください。寂しいです、先生」という追悼。
 これはない。「寂しいです、先生」ではなく、「ごめんなさい、先生」ではないだろうか?
今回、小学館の編集者、映像営業担当者、テレビ局の製作サイド、脚本家の誰一人として、原作者がつくった世界観、原作者の思いを無視したとしか言いようがない。

24/02/01●2023年の出版物推定販売金額はかろうじて1兆円を上回る

 このほど、2023年の出版物推定販売金額が公表された。その額は、1兆0,612億円。かろうじて1兆円を上回ったものの、ピーク時の1996年の2兆6564億円と比べると、実質的に3分の1になってしまっている。
もはや出版不況と言うレベルの話ではなく、紙による情報、文化事業は、特殊なものを除いて成り立たないとみていいだろう。このまま行けば、2024年は1兆円割れは確実だ。
 月刊誌、週刊誌から新書まで、休刊は今年も加速するだろう。もちろん、コミック誌も軒並み部数を落としている。100万部を超えるのは『週刊少年ジャンプ』だジェで117万部。ほかは、『週刊少年マガジン』37万部、『週刊少年サンデー』16万部、『ビッグコミック』16万部といった具合だ。漫画は紙でなくアプリで読む時代に完全に移行した。
 さらに、書店も今年も、次々に閉店していくに違いない。

24/01/30●トップカルチャーの連結決算は売上高189億5300万円で前年比9.3%減

 書店「蔦屋」を中核とするトップカルチャーの連結決算は売上高189億5300万円、前年比9.3%減、営業損失は8億200万円(前年は1億5400万円の損失)、当期純損失は13億7600万円(前年は2億7200万円の損失)で、減収損失の決算となった。
 このうち、「蔦屋書店事業」売上高は179億6500万円、前年比12.2%減で、「書籍」「特選雑賀」「レンタル」「ゲーム・リサイクル」「販売CD、DVD」のすべてがマイナス。こうなると、「蔦屋書店事業」がもはやビジネスモデルとして成立していないことを示している。「蔦屋」は現在58店あるが、今後、さらに閉店が加速するはずだ。

24/01/15●松本人志スクープで「週刊文春」約45万部が完売。松本のタレント生命終焉

 文藝春秋は15日、「ダウンタウン」松本人志の性行為強要、セックスパーティを報じた 第1弾「週刊文春」24年1月1日・11日新年特大号(23年12月27日発売)45万1000部が完売したと発表した。完売は20年6月18日号以来。また電子版の有料会員も大幅に伸びているという。

 ただし、週刊誌全盛時代を経験した自分としては、新年号はたいしたスクープなどなくても100万部以上が当たり前だったから、つくづく時代は変わったと思う。

 ただそれよりも、こういうスクープをするメディアが週刊文春以外になくなったこと、その文春を「文春砲」などと呼んで、おざなりな後追い報道するだけのメディアばかりになったことのほうが問題だと思う。日本のメディアは、本当に変わってしまった。ジャーナリズムが機能しなくなっている。

2024年1月15日●弊社がプロデュースした『それでもあなたは長生きしたいですか? 終末期医療の真実を語ろう』(富家孝・著、ベストブック)が発売されました

●弊社がプロデュースした『それでもあなたは長生きしたいですか? 終末期医療の真実を語ろう』(富家孝・著、ベストブック、1,760円)が発売されました

 これまで色々な媒体に書いてきた死をめぐる問題、を1冊の本にまとめました。サブタイトルは、「終末期治療の真実を語ろう」となっていますが、内容は、それだけでなく多岐にわたっています。

 がん、心疾患、糖尿病、認知症——死に至る病についての対処法はもちろん、どのように健康で長生きするかについても余すところなく書きました。(著者より)

以下、「目次」と「はじめに」を公開します。


《はじめに》

また一歩死に近づいた。75歳を超えて後期高齢者の仲間入りをしてから、私は日ごとにそう思うようになりました。    

 とくに、昨年(2022年)、コロナ禍のなかで、「突発性難聴」になり、10日間の入院生活を送ったときから、その思いが強まりました。

 突発性難聴というのは、その名のとおり急に耳が聞こえなくなる病気です。突発性が付く病気というのは、たいていの場合、原因がわからないということです。ただし、私の場合は、「糖尿病」を発症しているうえ、これまで3度も「狭心症」による心臓の手術を受けています。また、「前立腺がん」も患っています。

 つまり、老化が進んで、それがいろいろなかたちで身体に現れているのです。その一つが突発性難聴でした。原因がどうのこうのより、そう考えるのが自然です。

 入院中のベッドのなかで、「後期高齢者になるというのはこういうことなのか」「老化とはこういうことなのか」と、改めて思いました。そして、「あと何年生きられるだろうか」と、初めて大きな不安を感じました。

 それまで、病気になってもなんとかやり過ごしてきましたが、これからはそうはいかないかもしれないという不安がよぎったのです。

 別に私は、死を恐れているわけではありません。そのときが来たら、誰にも迷惑をかけず、自然に逝く覚悟はできています。ただ、自分の死がどのように訪れるかわからないことが不安なのです。

 医者になって半世紀、開業医、病院経営、医療コンサルタント、プロレスのリングドクター、大学の講師、医師派遣業、老人・介護施設の顧問兼アドバイザー、そして医療ジャーナリストと、さまざまな経験をしてきました。

 そんななかで、これまで数多くの死を間近に見てきました。死期が近い方、また、そのご家族からの相談も山ほど受けました。年間、100を超える死亡診断書を書いたこともありました。

 それで思うのは、人生がさまざまなように、死もまたさまざまであるということです。そして、そのさまざまな死のなかで、ご自身の望みどおりの死を迎えた人は少ないということです。

 私は代々続く医者の家に生まれ、きょうだいも医者になったため、医者に囲まれて育ちました。そのため、自然の流れとして医者になったのです。そのため、命を救うという強い使命感を持って医者になった方とは、考え方が違うかもしれません。ただ、これまで多くの死を見てきたので、私なりの死生観を持つようになりました。

 私の死生観に少なからず影響しているのは、やはり父の死に方です。息子の目から見た父は、歳をとっても元気で、毎日、訪れる患者さんの診察に追われていました。それが70歳のとき、ある日突然、突発性の大動脈解離を起こし、その日のうちに逝ってしまいました。いま思えば、これも老化の突然の現れだったと思います。

 死に方ということで言えば、父の死は、いま理想とされている「ピンピンコロリ」(病気に苦しむことなく、直前まで元気で楽しく生き、最後はコロリと死ぬ。最近は「PPK」とも呼ばれている)です。

 昔は、老人はほとんどが病気持ちでした。病気と老化は同じもので、持病を持たない老人は少なかったのです。老人と言えば、それはなんらかの持病を抱えた死期の近い人でした。

 しかし、いまは違います。人生100年と言われるようになり、高齢でも働き続ける元気な老人が増えています。ただし、それは目に見える範囲での話で、じつは施設や家庭には寝たきり老人も多いのです。その存在が見えないだけです。

 私はこれまで、終末期の延命治療がいかに人間の尊厳を損なうものか、つぶさに見てきました。寝たきり老人にとって、長生きほど残酷なことはありません。はっきり言って、自分の力で生きられなくなった人間にとっては、治療による長生きは無意味です。

 こうした思いから私は、延命治療だけはしてほしくないと願い、家族にもそう話してきました。父のように1回の発作で死ねればいいのですが、助かって寝たきりになるのはまっぴらごめんです。

 本書は、私がこれまでメディアに書いてきたコラム、エッセイを再編集したものと、新たに書き下ろしたものとで成っています。

 ここ数年、私が連載コラム、エッセイを書いてきたのは、『夕刊フジ』『月刊経済界』『ヨミドクター(読売新聞の医療・健康ニュースのウェブ)』などです。これらのコラム、エッセイのテーマのほとんどが、高齢者の「健康」「病気」「老化」「死」にまつわるものです。そんななかで、反響が大きかったのは「長生きは幸せか?」「幸せな死に方とはなにか?」というテーマで、病気では「がん」「心疾患」「糖尿病」「認知症」です。

 本書が、読者のみなさんが現在を生きていく参考になってくれることを切に願います。どうか、元気で長生きをしてほしいと思います。

 人は必ず死ぬのです。ただし、いまをどう生きるかで、その死は大きく異なります。

《目次》

[Part1] 長生きは幸せか?
1、「人生100年時代」の裏でメディアが取り上げない「百寿者」の現実とは?
2、健康でなければ長生きは苦痛。80歳まで生きられればいいと考えている人が大半
3、長寿の不都合な真実。長生きすればするほど「貧困地獄」に落ちる
4、長生き老人を食い物にする、ぐるぐる病院、ブラック病院
5、現代の「姥捨山」か? 終末期に入る「療養型病院」の現実
6、「看取り」とはなにか?「終末期治療」(ターミナルケア)との違いは?
7、「緩和ケア」を受けたくとも受けられないという現実
8、この日本で、究極の選択「安楽死」は可能か?

[Part2] 悔いのない死に方
9、「65歳」「75歳」「85歳」— 長寿を阻む10年ごとの「壁」とは?
10、狭心症の手術を3度体験して思う、心疾患による突然死は防げる
11、「65歳の壁」で「フレイル」を感じたら始めるべきこと
12、体力がガクッと落ちる「75歳の壁」で留意すべきこと
13、「85歳の壁」超えの最大の問題は認知症。認知症は防げないのか?
14、体を動かしてもいいが鍛えてはいけない。鍛えても長生きはできない。
15、誰もが願う「苦しまないで死ぬ」ことは可能か?
16、「寝たきり」にならないためにできることとは?
17、長寿を左右するのは「実年齢」より「主観年齢」

[Part3] 有名人の死に思う
18、哀悼!「燃える闘魂」。アントニオ猪木さんの壮絶死
19、高嶋忠夫さんの在宅死で思う。家族と地域の支えなくしては「願い」はかなわない
20、大橋巨泉さんのがん死が浮き彫りにした「在宅緩和ケア」の問題点
21、末期ガンの手術より“最後の時間”を選んだ愛川欽也さん
22、なぜすぐ手術をしなかったのか?小林麻央さんの選択
23、渡辺裕之さん、上島竜兵さんはなぜ自殺を?高齢者ほど自殺率が高く「うつ」になりがち
24、「がん放置療法」近藤誠氏の死去に思う、“異端”でも患者に選択肢を与えた功績は大きい
25、61歳で敗血症、あまりに早い渡辺徹さんの死が物語るのもの

[Part4]「孤独死」しないために
26、2040年、高齢者の10人に4人が「独居老人」に!
27、誰とも繋がらず社会孤独死した場合、どうなるのか?
28、有名人が続々と孤独死、その死因を考えて思うこと 
29、病院で死ねない、「在宅孤独死」の時代がやって来た!
30、「看取り難民」にならないためにすべきこととは?
31、孤独死を無事に迎えるための「かかりつけ医」の選び方
32、「孤食」「貧食」「偏食」が死期を早め、孤独死を招く

[Part5] がんで死ぬ幸せ
33、前立腺がんと診断されて4年。私はなぜがんを放置しているのか?
34、がんで死ぬのは本当に幸せなのか?
35、手術の決め手は外科医。「神の手」外科医もいれば「下手」外科医もいる
36、「5年生存率」「10年生存率」からがんと診断されたらどうするかを考える
37、5大がん「大腸がん」「乳がん」「胃がん」「肺がん」「肝臓がん」の対処法
38、発見されたときは手遅れ。難治性がんの「膵臓がん」「胆嚢・胆道がん」どうする?
39、「もう手の施しようがありません」と余命宣告を受けたら、どうしたらいいか?
40、無駄ながん検診、ほぼ無意味な75歳からのがん検診
41、日本でも始まった「がんゲノム医療」は夢の治療法なのか?

[Part6]糖尿病の不都合な真実
42、私も患者の1人、投薬、食事療法で生きている
43、糖尿病が治らない病気というのは本当か?
44、血糖値とはなにか? 基準値にはグレイゾーンがある
45、高血糖より怖い低血糖。即座に糖分補給を!
46、昔は「ぜいたく病」、いまは「貧困病」という不都合な真実
47、医療側から見た糖尿病。これほど儲かる病気はない
48、血管ボロボロ!糖尿病の本当の怖さは合併症にある!
49、血糖値を下げるクスリについて知っておくべきこと
50、糖尿病になりやすい人、なりにくい人

[Part7]安楽死は殺人なのか?
51、人工透析中止患者の死が問いかける「尊厳死」と「安楽死」
52、ASL患者の嘱託殺人事件から、「死ぬ権利」「安楽死」の容認を訴えたい
53、「殺人看護婦」1人の犯罪で終わらせていいのか? 現代の「姨捨山」と言える終末期治療の深い闇
54、現代の「姥捨山」、終末期に入る「療養型病院」の現実

[Part8]医療過誤を追及して
55、1年間に約8万人が医者に殺されている!
56、医者と患者は「嫁姑関係」、闘いは「異種格闘技」
57、示談がほとんど。しかし過誤が明らかなら告訴を!
58、どうやって病院と闘うか? 弁護士選びと訴訟の進め方
59、医者は平気でウソをつく。間違いは絶対認めない
60、死因を疑ったら病理解剖でなく司法解剖を求めよ!
61、なぜ医者だけが刑事責任を問われないのか?
62、医療過誤にあわないためにすべきこと

[Part9]認知症で死ぬということ
63、認知症患者はどう死んでいく? 安楽死は可能か?
64、認知症は老化の現れ? 進行は? 認知症を判定する有効な検査とは?
65、認知症のクスリはあるが、進行を遅らせる可能性があるだけ
66、最新の認知症薬は効くのか?認知症医療を変える「レカネマブ」とは?
67、人はなぜ老化するのか?長寿には限界がある
68、「長寿遺伝子」を探す旅。 腹八分は本当だった!

24/01/05●前代未聞。小学生向け学習参考書が2023年年間ベストセラー第1位に!

日販とトーハンの2023年、年間ベストセラーが発表されたが、なんと小学生向けの学習参考書が、日販1位、トーハン2位を獲得した。年間ベストセラーと言えば、人気小説、話題のノンフィクションなどがふつうだから、こんなことは前代未聞。おそらく、戦後の出版史で初めてではないだろうか?

 そのベストセラーは、『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算ができる本』(ダイヤモンド社、2022年12月7日刊)で、著者は小杉拓也氏(東京大学経済学部卒。志進ゼミナール塾長)、これまで公表されている部数は155万部である。時代は変わったと言えばそれまでだが、出版という業態そのものものが変わってしまった感が強い。

23/12/06●『あの子もトランスジェンダーになった』が発売中止に!

 2024年1月24日にKADOKAWAから発売される予定だった『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』(著・アビゲイル・シュライアー/監修・岩波明/訳・村山美雪、高橋知子、寺尾まち子)が発売中止になった。発売告知後、日本語タイトルやキャッチコピーがトランスジェンダーに対する偏見や差別を煽るものであると問題視されたことが原因。とはいえ、アメリカでは物議を醸しながら発売されているので、KADOKAWAの措置は過剰反応だろう。

 SNSで抗議されただけで、取次や大手書店を巻き込むような騒動になったわけではない。一般には、そんな本が出ることなどほとんど知られていなかった。この程度で、すでに出来上がっている本の出版を中止するのは、言論の自由に守られた出版社がやることではない。

2023年7月7日『地球温暖化敗戦 日本経済の絶望未来』(山田順・著、ベストブック)が発売されました

山田順の新著『地球温暖化敗戦 日本経済の絶望未来』(ベストブック、1,760円)が発売されました。

 地球温暖化に関してはいまだに科学論争が続き、日本ではなぜか「温暖化陰謀論」「温暖化懐疑論」が盛んです。しかし、もはやそんなことを言っている場合ではなく、温暖化は最大の経済問題になりました。したがって、これに積極的に対処しなければ国は衰退する一方になります。残念ながら、日本の温暖化対策は、世界から周回遅れ、いや2周は遅れています。いまのままでは、EVに乗り遅れたトヨタをはじめ、多くの日本企業は行き詰まるでしょう。
 本書は、今年になって書き始め、約3カ月でまとめました。これまでの世界の動き、日本の動きを網羅し、どうすべきかを警告しています。すでに、「気候移住」は始まり、不動産市場にも影響が出ています。
 以前の私は「温暖化懐疑論」者でしたが、近年の気候変動の激しさを見て、考えを大きく変えました。
 以下、長いですが、「はじめに」を転載します。(著者より)

■「はじめに」全文公開

「このままでは本当にまずい」
 新型コロナのパンデミックの最中から、そういう声を各方面で聞くようになった。なにがまずいのかと言えば、日本の地球温暖化対策が世界から“周回遅れ”“方向違い”になっていることだ。
「周回遅れならまだいい。2周も3周も遅れているうえ、対策の方向が間違っている」と言う専門家もいる。

 こう言われると、「そんなことはない。遅ればせながら菅前首相は2020年秋に“2050年カーボンニュートラル”を宣言し、日本はそれに向かって世界と歩調を合わせていくことになったではないか」という反論が聞こえてくる。

 しかし、ここではっきり書いておきたいが、「カーボンニュートラル」(carbon neutral)はほぼ口先だけの話。日本の現状から見て、実現の可能性は極めて薄い。具体的な計画もロードマップもあいまいだからだ。その後、菅前首相は「温室効果ガス」(GHG:Greenhouse Gas、グリーンハウスガス)を2013年度比で46%削減するという目標を設定したが、これは世界の主要国と比べると明らかに低い。

 思い出されるのは、2009年9月、当時の鳩山由紀夫首相が、ニューヨークでの国連本部で開かれた「気候変動サミット」で行ったスピーチだ。

「IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)における議論を踏まえ、先進国は、率先して排出削減に努める必要があると考えています。わが国も長期の削減目標を定めることに積極的にコミットしていくべきであると考えています。また、中期目標についても、温暖化を止めるために科学が要請する水準に基づくものとして、1990年比で言えば 2020年までに25%削減を目指します」

 この宣言に、「やはり日本だ」という声も上がったが、その結果は書くまでもない。2011年に東日本大震災に見舞われるという不幸もあったが、対策は遅々として進まず、政権が交代すると“鳩山宣言”はあっさりと撤回された。

 2013年1月、就任間もないは安倍晋三首相(当時)が、25%削減目標に関してゼロベースでの見直しを指示したのである。安倍元首相が、地球温暖化に関心が薄かったのはよく知られている。

 安倍政権の約9年間で、日本の地球温暖化対策はほとんど進まなかった。その進まない針を菅元首相が進めたのが

「2050年カーボンニュートラル宣言」だった。

 「カーボンニュートラル」とは、ひと言で言えば、地球温暖化の原因とされるGHG(温室効果ガス)の主成分である「二酸化炭素」(CO2)の排出量と吸収量・除去量をニュートラル(均衡)=プラスマイナスゼロにすること。地球上に人間が排出したCO2を植物などがすべて吸収すれば、これが実現する。

 現在、CO2は、炭素(carbon:カーボン)を含む化石燃料を燃焼したときや、人間や動物が呼吸をしたときに排出され、それが植物などの吸収量を大きく上回っている。

 ちなみに、カーボンニュートラルが実現した社会を「脱炭素社会」(decarbonized society:ディカーボナイズド・ソシエティ)と呼んでいる。

 現在、世界で行われているカーボンニュートラル政策は、IPCCによる調査研究の結果がベースになっている。IPCCは、地球の気温上昇を1.5℃以内に抑える条件として「2050年ごろまでにカーボンニュートラルを実現させる必要がある」と提唱した。これを受けて、世界の145の国と地域(中国は2060年)がカーボンニュートラルを表明した。

 菅政権から地球温暖化対策を引き継いだ岸田文雄政権は、GX(Green Transformation:グリーントランスフォーメーション)の積極導入を打ち出し、「GX実行会議」を創設した。GXとは、太陽光や風力・水力・などの「再生可能エネルギー」(green energy:グリーンエナジー、「再エネ」と略)への転換を通して産業構造を変革し、脱炭素社会の実現と経済成長の両立を図る取り組みのこと。岸田首相は、GX実行会議の創設とともに、脱炭素へ向けて10年間で150兆円超を支出することを表明した。

 しかし、GX実行会議での議論を基につくられた「GX推進法案」が2023年4月に国会で成立したが、その中身たるやお寒いかぎりである。まず法案自体が、原子力発電所の「60年超」運転を可能にする5つの関連法の改正案を一本化した「束ね法案」に過ぎなかったこと。次に、再エネを主力電源としながらも、脱炭素の定義がないため、再エネ化の道筋が見えないこと。さらに、当初必要とされる20兆円の財源を「GX経済移行債」という国債でまかなうことなど、これで脱炭素化が本当にできるのかという中身なのだ。

 結局、はっきりしたのは、原発の再稼働・新設と運転延長だけである。ウクライナ戦争によってエネルギー事情が逼迫するなか、GXという言葉を隠れ蓑にして、再エネ化を原発頼りにしてしまったという印象しか持ちえない。

 現在、脱炭素に向けての最大の課題は、世界各国で主流となっている「カーボンプライシング」(carbon pricing)の導入である。「GX推進法案」では、カーボンプライシングの導入が決まったが、その本格稼働は2030年代と、欧米や中国と比べると明らかに遅い。また、いまもなお稼働中の石炭火力をどう削減するかという大問題もある。

 岸田首相は安倍元首相と同じく、地球温暖化問題には関心が薄い。そうでなければ、GX担当相に、統一教会問題で火だるまになった萩生田光一経済産業相を兼務とはいえ起用しないだろう。彼は原発推進派の1人で、これまで環境対策に積極的な発言をしたことはほとんどない。

そればかりか、統一教会問題でウソを連発して辞任に追い込まれた山際大志郎氏を、経済財政政策担当大臣に起用していた。山際氏は温暖化懐疑論者であり、これまで炭素税導入に明確に反対を表明してきた人物の1人だ。

 このように地球温暖化無関心政権が続いてきたせいか、日本企業はおしなべてカーボンニュートラルに周回遅れになっている。いまや最後に残った日本の主力産業の自動車産業は、いまだにガソリン車が収益の柱である。

 時価総額や1台当たりの利益率などで、EV(Electric Vehicle:電気自動車)1本足打法のテスラに抜かれたトヨタは、2022年後半から慌ててEVシフトを強めた。そうして、2023年4月から豊田章男氏に代わって佐藤恒治氏が社長に就任した。しかし、佐藤社長は、EVに注力するも基本的に「マルチパスウエー」(全方位戦略)で行くことを表明している。

 これでは、近い将来クルマがEVに1本化されたとき、トヨタが傾くのは確実だ。「このままではトヨタは間に合わないのではないか」という声も聞こえてくる。トヨタは環境団体から、自動車メーカーの脱炭素ランキングでワースト1に認定されている。

 たとえば、アップルはすでに自社の世界のすべての施設で再エネ100%を達成済みだ。そして、現在、2030年までに自社のすべてのサプライチェーンでのカーボンゼロを目指している。

 地球温暖化と言えば、日本人が思い出すのは1997年の「京都議定書」(Kyoto Protocol)だろう。あの当時は、日本はまだ「環境先進国」だった。しかし、いまは間違いなく「環境後進国」である。

 また、再生可能エネルギーと言えば、なんと言っても太陽光発電であり、1990年代は日本が世界の太陽光発電をリードしていた。太陽光パネルのシェアは世界一だった。しかしいまや太陽光パネルのシェアの85%は中国に持っていかれた。

 地球温暖化はウソだという懐疑論、陰謀論がある。日本ではなぜかこうした見方が根強い。なにしろ、あのトランプ前大統領は、「それはでっち上げだ」(It’s a hoax.)、「中国が自らのためにアメリカの産業の競争力をなくそうとつくったコンセプトだ」(The concept of global warning was created by and for Chinese in order to make U.S. manufacturing non-competitive.)と言ったのだから、無理もない。

 実際、トランプ前政権は「パリ協定」(Paris Agreement)から離脱した。

 じつは私も、当初は地球温暖化を疑っていた。「温暖化ではなく寒冷化している」「寒冷期と温暖化が繰り返すサイクルに過ぎない」ということのほうが真実ではないかと思っていた時期もある。

 しかし、IPCCの報告と懐疑論を読み比べつつ、近年の気候変動の猛威を見て考えを改めた。もはや、科学をもって論争しても無意味と思うようになった。IPCCが言うような人為的な温暖化が事実であろうとなかろうと、この問題はすでに科学論争を超えて経済問題、社会問題になっている。

 たしかにいま、世界各国はこの問題に対して温度差がある。しかし、もう方向は決まってしまっている。地球温暖化を防ぎ人類の生き残りを図る。そうしながら経済を回していく。この方向に世界は動いている。

 つまり、すでにバスは発車しているのである。

 ならば、日本のように乗り遅れているとどうなるかは、言うまでもないと思う。

 本書は、地球温暖化を科学的に捉えて論じるものではない。なにしろ、私にはそんな知見がないし、その能力もない。よって、この問題を経済、社会の面から捉え、私たちはどうすべきかを考えていく。このままでは、日本はさらに環境後進国になってしまう。脱炭素競争から脱落すれば、多くの日本企業は凋落し、私たちの暮らしはよりいっそう厳しいものになってしまうだろう。